本の感想「ある旅行死亡人の物語」武田悖志・伊藤亜衣

「ある旅行死亡人の物語」武田悖志・伊藤亜衣(毎日新聞出版)著者はいずれも共同通信社の記者である。旅行死亡人とは身元不明で亡くなった人のことだが、この本で取材対象になったのは多額の現金を残して亡くなった独居老人である。住んでいた安アパートの居室に残されていたのは3000万円をこえる現金の他は僅かの手がかりだけで、その人にどのような生活歴があったのかについては皆目分からない。あたかも自分の死後に自分の存在を秘匿する必要でもあったかのように。二人の記者は故人がどのような人生を歩んできたのかを解き明かしていこうとする。少ない資料からかすかな痕跡をたどっていくと次第に明らかにになる事実が見えてくる。最後には謎も残った。記者がどのような方法を使って事実に迫っていくのかがリアルに描かれていて読みごたえのあるルポである。