本の感想「愛しのゴキブリ探訪記」柳澤静麿

本の感想「愛しのゴキブリ探訪記」柳澤静麿(ベル出版)

 著者は静岡県にある昆虫観察自然公園の職員でゴキブリストを自称する。この本はゴキブリの生態を詳しく紹介したものではなく、著者が昆虫観察や最終のために世界各地を探訪したルポルタージュである。昆虫採集をする人にとってはhow to本として使える。ゴキブリというと嫌われる昆虫のひとつであり、家の中で出てくるとたいていは駆除される。基本的には北海道の人家にはまだほとんどいない。この本では家の中に生息するゴキブリではなく、野外に生息する多くの種類を紹介してある。家のゴキブリとは随分と姿が違っていて多様性がある。現在見つかっているだけで世界では4600種類以上、日本では64種類いる。巻頭にはカラー写真が多く掲載されていて本書で紹介されている種類がほぼ網羅されている。野外の生物を研究対象にする人たちにはフィールド・ワークは必須であり、それを楽しめない人はそういう研究分野には進まないものだろう。夜間、深い森に入っていくのでそれなりに危険な目にも合うことがあるから誰にでもすぐに真似できることではない。実際にそういう体験をしない多くの人たちにとっては本書のようなものを通して、現場ではどういうことが行われているのか知ることになる。

本の感想「ジェンダー・クライム」天童荒太

本の感想「ジェンダー・クライム」天童荒太文藝春秋

 ミステリー作品でエンターテインメントとして楽しめる。主人公はベテランの警察官で柔道の達人でもある。ある捜査で優秀だがなにか一癖あって「合わない」感じの若手と組むことになった。事件は殺人で被害者は50代の男性。暴行を受けて殺されていたが死体にはあるメッセージが残されていた。明らかに犯人が故意に残したものだった。捜査が進むにつれて、数年前に女性が集団で暴行を受けた事件との繋がりが見えてくる。加害者は4人の男性だったが、何故か起訴されずに示談で決着が付けられていた。

 登場人物が多くて分かりにくくなりそうだが、筋立てははっきりしているのでミステリーとして訳が分からなくなくことはない。終わり方も鮮やかであった。暴行事件の加害者たちのそれぞれの背景と、主人公の相棒になった若手の警察官が抱えているらしい秘密を少しずつ明かしながら物語が進んでいく。書名にある「ジェンダー」については作者はあとがきでこのように述べている。「国全体、社会全体に、連綿として受け継がれてきた男女間の差別…また、差別とは言えないまでも、長年、常識・慣行とされてきた決まり事や、暗黙の了解による、男女それぞれの役割、「らしさ」といった振舞い方や、その受け止め(られ)かたなどが、それである。」とある。作品中に若手の捜査官が主人公を諫める部分がある。女性の配偶者を「ご主人」と言ってはいけないと。確かについそう言ってしまうことがなくはない。配偶者の名前を知っていれば「~さん」と言えるのだがあいにく覚えていないこともしばしがあるものだ。少し前に読んだ新聞記事では「夫さん」「妻さん」という言い方が普及すればいいのにと述べている人がいた。それは賛成できるが聞きなれていないから語呂がよくない。普及すれば気にならなくなるのだろうけれど。作者のあとがきはこうも記してある。「だが言葉は、人の暮らしや社会の在り方を縛ったり、ある方向へ導いたりする力がある。ささやかでも、呼び方一つの影響はきっと少なくない。」

本の感想「貸本屋おせん」高瀬乃一

本の感想「貸本屋おせん」高瀬乃一(文藝春秋

 江戸の素人探偵が活躍する5話を収める。探偵役は貸本屋を営む女性で商売をしながら様々な情報を収集し推理を働かせ謎解きをする。子供の頃に母親は家を出ていき、父親は自殺してしまったので苦労して商売を立ち上げて才覚を発揮して生活を成り立たせている。主人公に思いを寄せる若者がいてしばしば「捜査」に協力する。あまり時代小説を読むことはないのでちょっと不慣れな印象があったがミステリーとしてまずまず楽しめた。江戸の人たちの暮らしぶりの描写が生き生きとしている。この本が作者にとっての単行本デビュー作である。最新作の「無間の鐘」が出たばかりななので読んでみたい。

4月の山行 「坊主山 4月15日」

4月の山行 「坊主山 4月15日」

坊主山山頂からの眺め

 昨年11月に初めて訪れた時は登山口までのアプローチで道を間違ってしまいました。1時間以上車でさまよった苦い経験があります。今回は道は分かっているので登山口まで無事にたどり着きました。林道の状況が心配でしたがぬかるみもなく大丈夫でしたが、この林道アプローチは4WDのRV車だと安心です。私の車はFFの小型車なのでこの道の運転は厳しいものでした。出発は4:48でもう明るくなっています。道路も空いていて6:17には登山口に到着しました。ここまで74kmで1h29mかかりました。駐車スペースには他に車は停まっていませんでした。先行者はいないようです。早速、長靴に履き替えて6:20に登山開始しました。

登山口

 雪がどのくらい残っているか案じていたのですが、登山口近辺には残雪はありませんでした。道はしっかりしていてササヤブこぎになるところはありません。所々、視界が開けますが遠方は春霞でしょうかぼんやりしています。登山道にはシカのフンが沢山落ちています。この辺はシカの生息数が多いのでしょう。しばらく進むと右前方のササヤブでガサガサと大きな音がしました。シカなら問題ないですがクマだと困ります。クマ鈴を鳴らしながら慎重に前進しました。「ピーッ」と鳴き声をあげて雌シカが駆け出して行きました。

所々、残雪があります。

 登るにつれて所々、残雪を踏むところがありました。雪融け水で登山道が濡れているところもありました。長靴なので問題なく歩けます。普通の登山靴でスパッツを付ければ大丈夫なぐらいの状況でした。雪の上の足跡はシカばかりで、ここ数日は入山者がいなかったようです。

小屋を通り過ぎます。もうすぐ山頂です。

 小屋を通過します。ドアを開けて中を覗いてみました。きれいに整備されています。この先にまた残雪を踏むところがありました。

小屋の向こうには遠い山々が見えます。

 遠くの山は霞んでいますが、快晴です。この辺りのササヤブもきれいに刈りこまれていました。

この先が山頂です。

山頂からの眺め

 7:10登頂しました。風もなく日差しが強いので全く寒くありませんでした。遠方の視程は利きませんが360度の展望が開けています。見下ろす斜面にはまだ残雪が所々に見えていて春山らしい風景でした。

日高山脈の方向

夕張岳の方向

夕張岳の方向 少しワイド側にズームアウト

 山頂はずっと貸し切り状態でした。霞がかからずにずっと遠くまで視程があればどの辺まで見えるのでしょうか?日高山脈は距離的には近いですが手前に別の山があるのでよく見えません。標高の高い山の山頂付近が見えるだけです。西の方は恵庭岳や樽前山あたりまでは見えるのではないかと思います。登山口から山頂までは2.5kmぐらいで標高差も300m弱ぐらいで手軽に登れる山ですが、入山者は多くないようです。昨年秋に登った時は7~8名と会いました。今日は往復ずっと誰にも会いませんでした。7:55までゆっくりと眺望を楽しんで下山開始しました。8:30登山口に到着でした。8:34には車をスタートして往路と違ったルートを通ってみました。復路の方が5km長くて79kmで、時間は1h42mかかりました。10:16帰着でした。

本の感想「数をかぞえるクマ サーフィンをするヤギ」ベリンダ・レシオ 中尾ゆかり訳

本の感想「数をかぞえるクマ サーフィンをするヤギ」ベリンダ・レシオ 中尾ゆかり訳(NHK出版)

 本のサブタイトルは「動物の知性と感情をめぐる驚くべき物語」で、動物を使った様々な実験と観察を通してこのテーマを考察した記録である。学者たちは実に多彩な実験を考えだすものだと驚かされるし、その結果から導き出される仮説にも仰天させられる。ヒトの知性と感情は基本的にはヒト特有な仕組みなのだろうが、動物にも似たような仕組みがそなわっていて、両者はある部分では重なり合ったり共鳴し合ったりするものらしい。動物言語学は鈴木俊貴氏のシジュウカラの研究が注目を集めていて今後さらなる成果が期待されている。本書でも動物が文法を持ったコミュニケーションをしていることを示す事例が紹介されている。空間認識能力の実験ではダンゴムシが視覚で天体のパターンを読み取って移動に役立てていると分かったという。この他にも大変興味深い実験が紹介されている。

 

 

本の感想「お隣の外国人」吉永みち子

本の感想「お隣の外国人」吉永みち子平凡社

 昨年のデータによると日本で就労している外国人はおよそ200万人だという。そのうち国籍別で最も多いのはおよそ50万人のベトナム人だ。このルポではアジア、中東、中南米から来日している外国人たちを取材した。全部で12組だが状況は色々で、単に出稼ぎ目的の場合もあれば、日本人の配偶者がいる場合もある。出版は1993年とかなり古いので日本で働く外国人の状況は少なくとも改善のほうこうにはあるのだろうが、未だに労働条件面でブラックなところもあるし、ヘイトや差別の被害を受けている人たちもいる。政府は労働力不足の対策として外国人労働者を増やす計画を進めているが、かつて円高だった時代と違って日本で働いてもかつてのようなお金にはならなくなった。抜本的に労働条件を改善しなければ定着は期待できない。この本の取材はそれぞれの祖国の料理を作ってもらうという仕掛で取材した。料理を作って一緒に食べると、その後では色々なことをよく話してくれるようになったという。うまいところに目を付けて取材したものだと思う。

本の感想「遺品整理屋は聞いた!遺品が語る真実」吉田太一

本の感想「遺品整理屋は聞いた!遺品が語る真実」吉田太一(青春新書)

 著者は日本で初めて遺品整理業の会社を起業した。それから6年間の経験を書籍化して2008年にこの本が出版された。内容はいささか古いが、この仕事の内実は今も当時も大きな変化はないのだろう。こういうようなことまで取りあつかっているということを知るにはこの本はとても役に立つ。亡くなった人の後始末をすることで様々なことが分かってくるもので、中には遺族には知らせない方がいいこともある。そういう配慮をしながら仕事を進めていかねばならない。依頼者には感謝されることばかりではなく、時には非難されるようなこともあるのだという。死者と生者との間には何らかの確執が残っていることもあるし、遺産増賊の問題が出来することもある。身寄りのない人が亡くなるケースもある。著者は遺書をしっかり準備しておくことを勧めている。昨今ではなデジタルデータが残されることがあるが、スマートフォンやPCなどはパスワードで保護されているからそのままデータとしてネット上に残っているだけという状態にもなっているのではないだろうか。ネット上で更新されないデータは一定期間の後に自動的に削除されるというルールも必要になるのかもしれない。