2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

本の感想「ボーダー」佐々涼子

本の感想「ボーダー」佐々涼子(集英社インターナショナル) 副題が「移民と難民」で、世界的に見ても非人道的な状況が改善されない日本の移民・難民政策を丁寧に取材したルポルタージュ。まず難民救済に尽力している弁護士が入管の現況を次のように説明して…

本の感想「夏子の冒険」三島由紀夫

本の感想「夏子の冒険」三島由紀夫(角川文庫) タイトル通りの内容で、夏子が数日間の冒険的な旅をする物語。夏子は東京の裕福な家庭の20歳の娘で、多くの男性から結婚を求められていたが、意中の人はいない。ある朝唐突に、函館の修道院に入ると宣言する。…

本の感想「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」佐々涼子

本の感想「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」佐々涼子(早川書房) 2011年の震災で被害を受けた日本製紙石巻工場の復興を綿密に取材して書かれた傑作ルポルタージュ。工場は津波に襲われて完全に機能停止した。水没した工場の敷地や建物内には瓦礫が大量…

本の感想「黄色い家」川上未映子

本の感想「黄色い家」川上未映子(中央公論新社) 物語の語り手は40代の女性である。彼女が高校生(中退した)から20歳過ぎぐらいまでの数年間の暮らしを回想する形で書かれている。黄色は風水では金運をあらわしていて、ストーリーの大きなテーマは「お金」…

本の感想「北海道野鳥記」竹田津実

本の感想「北海道野鳥記」竹田津実(平凡社ライブラリー) 竹田津氏の写真集で一番有名なのはキタキツネの作品だろう。野鳥の写真集は出版されたことがあるかどうか分からないが、この本では専ら野鳥との関りについて記されている。竹田津氏がまだ学生の頃か…

本の感想「笑いの力」河合隼雄、養老孟司、筒井康隆

本の感想「笑いの力」河合隼雄、養老孟司、筒井康隆(岩波書店) 2004年小樽市の「絵本・児童文学研究センター」主催のシンポジウムの記録。豪華な3名のパネリストなので、実際に参加できたならばこの本を読む以上に面白い体験だったろう。一神教の文化圏で…

本の感想「旅をする練習」乗代雄介

本の感想「旅をする練習」乗代雄介(講談社) コロナ禍の2020年3月、サッカーが上手な中学入学を控えた女の子と、その叔父が徒歩で鹿島スタジアムを目指す旅をする。途中で就職が決まっている女子大学生と出会い旅を共にすることになる。女の子の叔父もサッ…

本の感想「もっと悪い妻」桐野夏生

本の感想「もっと悪い妻」桐野夏生(文藝春秋) 桐の死の作品と言えば、長編で濃厚な人間模様を描いたものが多いと思う。この作品は、手に取って薄い本だったので驚いた。しかも短編集で6作品を収めてある。それぞれのストーリーは軽みがありあっさりした印…

本の感想「男性論」ヤマザキマリ

本の感想「男性論」ヤマザキマリ(文春文庫) ヤマザキ氏が高評価する古今東西の男性を評する。そして生きずらさ、行き止まり感をもっているような人たちへの提言にもなっている。既成の枠lに閉じこもらずに外へ向かうこと、やってみたいことをやってみるこ…

本の感想「銃を置け、戦争を終わらせよう」高村薫

本の感想「銃を置け、戦争を終わらせよう」高村薫(毎日新聞出版) 「サンデー毎日」に連載の「サンデー時評」2021年6月6日~2023年6月18日までを再構成したもの。時評なので連載をリアルタイムで読みたいのだが、「サンデー毎日」は図書館にはないので、い…

本の感想「イラク水滸伝」高野秀行

本の感想「イラク水滸伝」高野秀行(文藝春秋) 高野氏の辺境ルポ。古代メソポタミア文明が栄えたイラクの湿地帯を2018年、2019年そしてコロナ禍による中断を余儀なくされたのち2022年と3度に渡って取材した。この地域を現地人との交流を通じてルポしたもの…

本の感想「コメンテーター」奥田英朗

本の感想「コメンテーター」奥田英朗(文藝春秋) 型破りな精神科医が無茶な治療法で患者を治療する痛快小説。無茶な中にも筋の通ったようなところがあるのが愉快に思える。患者は例えば、視聴率を取ることに取りつかれたテレビ番組の制作者だったり、巨額の…

本の感想「最後の証人」柚月裕子

本の感想「最後の証人」柚月裕子(宝島社) ヤメ検の敏腕弁護士による法廷ミステリー。担当した事件はホテルの一室で起きた殺人事件で、部屋には被害者と加害者だけがいた。タイトルにある「最後の証人」とは誰なのか?法廷ではやり手の検事との攻防が始まる…

本の感想「クマにあったらどうするか」姉崎等

本の感想「クマにあったらどうするか」姉崎等 (木楽舎) 姉崎氏はアイヌ民族最後の狩人で、22歳から単独でクマ撃ちを始め、25年間で40頭、集団猟を含めると60頭を仕留めた。この道の達人であり、道内のクマの生態や行動について知悉している。1990年に春ク…

本の感想「超新星紀元」劉慈欣  大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳

本の感想「超新星紀元」劉慈欣 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳 (早川書房) 劉慈欣の「三体」はスケールの大きな長編でヒット作品になった。その後、この作品以前に書かれた作品がいくつか翻訳されているが、いずれも「三体」の完成度には及ばないと…

本の感想「どれほど似ているか」キム・ボヨン 斎藤真理子 訳

本の感想「どれほど似ているか」キム・ボヨン 斎藤真理子 訳(河出書房新社) 著者は韓国で「もっともSFらしいSFを書く作家」と言われているとのこと。短編10作品を収めている。SF的なレベルが高すぎてストーリーを追いかねるような作品もあった。あたかも現…

本の感想「日暮れのあと」小池真理子

本の感想「日暮れのあと」小池真理子(文芸春秋) 配偶者の藤田宣永氏を亡くしてから出版された「月夜の森の梟」(朝日新聞出版)は心を打たれるエッセイ(朝日新聞に1年間連載されたもの)だったが、それ以降文芸作品の刊行はこれが初めてとなる。文芸誌に…

本の感想「赤い十字」サーシャ・フィリペンコ 名倉有里 訳

本の感想「赤い十字」サーシャ・フィリペンコ 名倉有里 訳 (集英社) 第二次世界大戦中から戦後にかけてのロシアで10年間国家による拘束された女性が語る記録。高齢になりアルツハイマーを患っている女性と同じアパートに若い妻を病気で亡くした子連れの男…

本の感想「五十八歳、山の家で猫と暮らす」「六十一歳、免許をとって山暮らし」平野恵理子

本の感想「五十八歳、山の家で猫と暮らす」「六十一歳、免許をとって山暮らし」平野恵理子(亜紀書房) 本のタイトルがそのまま内容を表している。山の家とあるが、JR小淵沢駅まで徒歩40分ということなので、田舎暮らしという方が実態に合っている。この山の…

本の感想「The Music of Bees」Eileen Garvin

本の感想「The Music of Bees」Eileen Garvin (HEADLINE REVIEW) 2021年に出版された作品で著者はオレゴン州在住でこの作品がデビュー作となる。 主要な登場人物は3人。Alice 40代半ばの女性で交通事故で夫を亡くした後は一人暮らし。長年、郡の仕事をしてい…