本の感想「先生、シロアリが空に向かってトンネルを作っています!」小林朋道

本の感想「先生、シロアリが空に向かってトンネルを作っています!」小林朋道(築地書館

 著者は鳥取環境大学の教授で専門は動物行動学、進化心理学。この本は「先生シリーズ」の最新刊になる。大分前にこのシリーズを2冊読んだことがあって、面白かった記憶があった。いつの間にか16冊発刊されていたので未読の物はこれから読んでいきたい。

 大学で起きる動物絡みの様々な出来事や、著者自身の研究の一端を紹介している。なんだか著者は現代日本ドリトル先生みたいに思えてくる。こういった研究は何か役に立つのかと思う人も少なくないのだろう。とりわけ行政サイドの人たちから見れば、もっと金儲けにつながることをやらないと大学の存在意義がないというのが定見になっていそうだ。だが、決してそうではない。分からないことを解明することはアカデミズムの最も価値のある意義・目的であることは自明である。

 例えば、こんな研究が紹介されている。ニホンモモンガとシマフクロウとは野生での生育域は重なっていない。ニホンモモンガとフクロウと関係は被捕食者と捕食者の関係にあって、仮にニホンモモンガとシマフクロウの生息域が重なっているとしたら、おそらく両者は被捕食者と捕食者の関係になるのだろう。実際にはシマフクロウは魚をエサにすることが多いのだろうけれど。それなのにニホンモモンガはシマフクロウに対して逃避反応を示すのは何故か?実験室で生まれたニホンモモンガの幼獣に生育域が重なるフクロウと重ならないシマフクロウの鳴き声を聞かせるとどう反応するか。実験結果はフクロウの方により強い逃避反応を示すが、シマフクロウの鳴き声にもより弱い逃避反応を示すという。両方の鳴き声を違った方向から同時に発生させると被験者の幼獣3頭は90%以上の割合でフクロウの方には曲がって行かず、シマフクロウの方に進んだという。大変興味深いと思う。