本の感想「spring」恩田陸

本の感想「spring」恩田陸筑摩書房

 バレーのトップレベルの人たちを描く。4つのパートで構成されていて、1つめは主人公のよき友人のダンサーの視点で描かれる。2つ目以降は、主人公の叔父の、3つめはよき友人の作曲家の、最後のパートは主人公自身の視点から描かれている。主人公は長野県の出身で小学生の時にたまたま出会ったバレーの先生に才能を見出された。順調に技量を身に着けていき、中学卒業時にはドイツへ留学する。プロデビューをしてドイツでキャリアを積んでいく。やがて自分で演ずるだけでなく振付師として認められるようになっていった。主人公を取り巻くバレー界の俊英たちとの交流を描くのだが、バレーの門外漢にとっては「お勉強」させられながら読む進むということになる。同じ作者で「蜜蜂と遠雷」はピアノコンテストに挑む若き才能たちを描いたが、本作品もそれと同じような仕立ての作品である。どちらの作品についても言えることだが、その分野にある程度の知識とか実体験がなければ、ストーリーにちゃんと付いていき難いと思う。「こういう世界もあるのだなあ」と思わせられるが、所詮は全くの別世界だということだ。バレーに詳しい人がこの作品を読んだらどの程度の没入感を得るものだろうか?案外と「こんなものではない」と思ったりするのだろうか?入念な取材がなければこれだけの描写はできないものだろう。その点では作者に敬意を表したい。