本の感想「先生、洞窟でコウモリとアナグマが同居しています!」小林朋道

本の感想「先生、洞窟でコウモリとアナグマが同居しています!」小林朋道(築地書館

 「先生、シリーズ」の多分8巻目になる。2つのエピソードを記す。

 1つめはセグルカモメの数の認識力について。繁殖地での観測のために営巣地にテントを張る。するとカモメたちはその場から距離を置いて、警戒する。しばらくの間、テントを張ったままにしておくとやがてテントへの警戒を解く。しかし、人がテントに歩いて行き中に入ると、警戒を解かない。そこで、観察者は2人組でテントに近づいて中に入る。その後、1人だけテントから出て遠ざかる。すると、カモメたちは警戒を解くのだという。つまり、1,2の数の概念が混濁しているということが分かる。研究者の狡知に軍配が上がったというエピソードだ。

 もう1つは著者が所属する鳥取環境大学での出来事。スズメが1羽大学の建物内に侵入して外に出られなくなっているのが見つかった。窓を開けて様子を見てもうまく飛び出していかない。管理者はとうとう腹をくくって、「しゃーない。上の窓の金網を切り取ろう。屋上からなら窓の金網も切れるしー」と言った。現場に一緒にいた著者は「一般社会に対する私の認識からして、スズメが1羽、建物に入って出られなくなっているくらいで、そのスズメのために、しっかりと設置されている窓の金網を切り取って逃がしてやるということなどまずありえないと思っていた」という。そして、実際に金網を切り、スズメは外に飛び出すことが出来た。この大学はおそらくこの一件の翌年に国立大学になったのだが、もしも国立化以降だったら、こうはいかなかったのではないだろうか?スズメ1羽のために国有財産である金網を損壊することの妥当性が問われることになるのだから。著者はこの顛末を授業で紹介して学生からは「よい話だ」という評価を得たという。教育活動にちゃんとフィード・バックされたのだ。めでたし、めでたし!