本の感想「神坐す山の物語」浅田次郎

本の感想「神坐す山の物語」浅田次郎双葉社

 東京の西端に位置する御嶽山にある神社が舞台になっている奇譚小説で短編7作品を収める。この神社には代々異世界と通じる能力のある者がいて、ある時は死者の霊と交流したり、狐憑きと戦ったりもする。ファンタジックな要素が絡むが、その度合いはあまり濃くないので、ちょっと風変わりな要素を含む物語として読める。ストーリーの展開が分かり易いし、その時代の空気感が強く伝わってくる。少し昔の日本には目に見えない存在と何らかの繋がりをもつことに一定の価値を置いていた。そういうことが科学的でないとして葬り去られてしまうと、人の尊大性や傲慢さが目立つようになったとも言えるのではないか。迷信や非人道的な因習は排除されるべきことであるが、人の価値観の外にある何か偉大な存在(という概念)に対しての畏怖の気持ちはなくすべきでないし、科学的な見地と排除し合わない関係を保つことは可能だと思う。