本の感想「音楽と生命」坂本龍一 福岡伸一

「音楽と生命」坂本龍一 福岡伸一 (集英社

 この2人が何度も対談をしているほどに親交があったということはこの本を読むまで知らなかった。福岡氏のエッセイは出版されるたびに読んでいるが、坂本氏との交流について記されていたのを読んだ記憶がない。

 「ピュシス(自然)とロゴス(理屈)の相克」が二人の対話の行きつくところだと福岡氏は述べている。分子生物学を長年研究してきた福岡氏はロゴスを相手にしてきたわけだが、ある時からそれだけではピュシスの全容を捉えられないと考えるようになった。実験やその分析をしてあるロゴスを解明できたとしても、それはピュシスのなかでは狭い一部だということ。いくら解明してもそれらの集積だけでは全体は分からない。だからピュシスをより俯瞰的に捉える方法を探求していきたいと思っている。

 脳の特性なのだろうが、私たちには無秩序から秩序を見出そうとする本能のようなものがある。例えば、無秩序に広がって見える星々をロゴス化するために、星座を作った。そうして星々には形という意味付けがなされたことになる。だが、そのこと自体は単純なバイアス化がなされたに過ぎず、他の無数にある別のバイアスが排除されたともいえる。ピュシスがロゴスによって理解の幅を狭められたことになる。二人の対話からは現代的なサイエンスが陥ってしまいがちな傾向に対する警鐘が聞こえてくる。