本の感想「日本エッセイ小史」酒井順子

「日本エッセイ小史」酒井順子講談社

 エッセイは昔は随筆と言われていて、「枕草子」とか「徒然草」とかは学校の文学史でも随筆としてカテゴライズされている。随筆からエッセイと呼び名が変わっていった頃から、エッセイがいっそう世の中に普及していった。どんなエッセイがよく読まれるのかはその時代の社会のあり様と密接にかかわる。エッセイも出版ビジネスが売り出す「商品」であるのだから、どういうエッセイが売れるかというのは重要な観点であり、エッセイストは基本的には売れないものを書くわけにはいかない。あとがきで著者が述べているが、この本は「エッセイについてのエッセイ」である。もう少し補足すると「売れているエッセイストによる主に現代のエッセイ(酒井氏自身の作品評価を除く)についての分析的なエッセイ仕立ての小史」である。無秩序に広がっているような事項をうまく分類整理してスキっとさせる手法は酒井氏の得意技であり、この著作もそういう類のもの。エッセイ小史という書名を冠したにもかかわらず、酒井氏ご本人の作品が一切言及されていないのは重要パーツの欠落であるが、やはりご自身のことは書きにくかったということでありましょう。講談社の担当編集者が酒井氏を説得しそこねてこうなったのかもしれない。編集者氏はあきらめてはいけない。「文庫化の時は増補版にしますから、ご自身の作品についても付け足しましょうね」と一押ししていただきたい。