本の感想「美しい星」三島由紀夫

本の感想「美しい星」三島由紀夫新潮文庫

 埼玉県の飯能市に住むある4人家族は各人が宇宙人であるという自覚を持つようになる。まず、夫が火星人を自認し、妻は木星人、長男は水星人、長女は火星人ということだ。こういう設定は星新一の作品にありそうだと感じた。物語はこの4人の家族の様々な人たちとの出会いを描く。夫は社会啓蒙活動を通して賛同者や反対勢力との関りを持つようになる。長男はあるきっかけで代議士との交流を深めていき、長女は金沢在住の男性との文通を経てその後、金沢で邂逅する。ストーリーは分かりにくくないが、登場人物の発話や論議が相当の分量を占めていてこの部分は難解である。

 昭和37年に刊行された作品で、その当時世界は米ソ中心の冷戦期で核軍拡の始まりであった。作品は核兵器を持ってしまった人類を論じている。核兵器を客観的に論ずるためには、人間の悟性では手に負えない。だから、作者はいわば「人知を超えた」存在を登場させた。それによってより自由闊達な論の展開をできるようにした。読者も作者と同じように理解力の拡張領域を発動させないとよく分からない印象をもつのではないか。再読してより丁寧に読もうとは思わなかった。