本の感想「ボーダー」佐々涼子

本の感想「ボーダー」佐々涼子集英社インターナショナル

 副題が「移民と難民」で、世界的に見ても非人道的な状況が改善されない日本の移民・難民政策を丁寧に取材したルポルタージュ。まず難民救済に尽力している弁護士が入管の現況を次のように説明している。「制度上、入管はいくらでも彼らを収容できてしまうんですよ。在留資格がない人や、非正規滞在などの理由がある人なら、難民申請をしていようと、家族の事情があろうと関係ない。期間も無制限でいくらでも閉じ込めておけるんです」入管では劣悪な住環境での生活が余儀なくされ、必要な医療へのアクセスも閉ざされる。スリランカ人のウィシュマ・サンダマシさんが施設内で病死した事件のように不手際が明らかになった時だけは報道が活発化するが、そうでない時は、入管内での不都合な真実はメディアも取り上げていない。問題が隠蔽されがちなのは私たちが関心をもとうとしていないことが理由の一つであるのだろう。

 イランに強制送還されることになった男性は、搭乗する飛行機のパイロットに自分を乗せないようにと訴えた。機長はそれを受け入れて男性を乗せずに離陸したのだが、その時、彼はこう言った。「俺は、日本は難民条約に入っていると信じていた。日本は先進国で法治国家だろうと。俺にはいい案がある。もしこれからも難民を受け入れる気がないなら、建前だけ掲げている人権国家の看板を下ろし、難民条約から脱退してほしい。だって実際、この国は人権国家じゃないんだから。そうすれば間違って日本に助けを求める外国人も減るだろう。お互いにハッピーじゃないか。俺も他国に助けを求められる」日本政府と国民はこの言い分に反駁できないのではないか。

 移民政策については政府は基本的に「移民を阻止する」ことを堅持する。しかし、安くて使いやすい労働力の確保のために技能実習生の制度を作った。幸か不幸かこの制度は内部崩壊しつつある。ベトナム日本語教育機関で働くある日本人は昨今の事情をこのように分析している。

 日本人はまだ過去の栄光(経済発達が堅調で円の価値も高かった頃)をを引きずっている。「勘違いしているんですよ。『経済大国の日本に働きに来られて嬉しいだろう』『どんな仕事でも来たいだろう?』という態度のという態度の人がまだまだいる。賃金が安くて、重労働で、日本人が辞めていく仕事に、なぜ外国人だったら喜んで就くと思っているんでしょうね」日本が買い手市場だった時代は終わりつつある。今は彼らのほうが日本を値踏みしているのだ。

 give and takeの関係性がなければ移民政策を整えることはできない。技能実習制度はあたかもtake and takeを基調にしていたものだった。経済大国から転げ落ちつつある日本からは、今後は若くて能力のある人たちが海外へ流出していくのではないだろうか。そうなれば日本の凋落は一気に下降線をたどることになる。幸いにして、日本人は概して外国語能力が高くないので、一気にそういうことにはならないだろう。もしも英語が達者な若者が多ければさっさと先進国へ出稼ぎに行く、移民するケースが多くなりそうだ。

 明るい状況もある。数は少ないが、人権派の弁護士はほぼ手弁当で難民の手助けを継続的に行っているし、ボランティア団体の支援活動が地域を巻き込んで活性化しているところもある。行政の支援を待つだけでは二進も三進ももいかない。民間が先行することでしか状況は動いていかないようである。