本の感想「完全なる白銀」岩井圭也

本の感想「完全なる白銀」岩井圭也(小学館

 山岳小説と言ってもいいのだろう。主人公の女性カメラマンがアラスカのデナリ冬季登頂を試みる。友人の女性クライマーが冬季単独登頂を成し遂げた後で遭難した。「登頂していないのではないか」という疑惑が沸き上がったことが動機だ。登頂に成功したとしても、亡くなった友人に対する疑惑を晴らす直接の証明にはならない。友人は遭難する直前に無線交信で山頂からの景色は「完全なる白銀(Perfect silver)」と言葉を残していた。その風景を友人と共有したかったのだ。

 山岳小説と言っても山行の描写は全体の中では一部でしかない。主人公が写真家を目指すことになった経緯や母親との軋轢、アラスカで出会った友人たちとの交流、写真の師匠との出会いなど主人公の半生を描いている。植村直己氏が冬季登頂で落命したのもデナリだったが、そのことを想像しつつ山行のシーンを読んだ。