本の感想「先生、頭突きの中のヤギが尻尾で笑っています!」小林朋道

本の感想「先生、頭突きの中のヤギが尻尾で笑っています!」小林朋道(築地書館

 「先生、シリーズ」の15巻目。少し長くなるが「固定的活動パターン」について引用する。「固定的活動パターンというのは、『動作の始まりから終わりまで、そのパターンの発現が、脳内の神経系にプログラムされており、一度始まると最後まで、そのプログラムに従って決まった動作が展開してしまう』という現象である。(中略)たとえば、カイコガ(蛾)の幼虫であるカイコが、自分の体のまわりにラグビーボール型の繭をつくる(そのなかで蛹になり、そして羽化して成体になる)とき、固定的活動パターンが大活躍する。カイコが口から糸を吐き出して繭をつくるときの頭部の動きは最初から最後までプログラムされていて、一度始まると、体のまわりに弧を描くように、頭(したがって口)を動かし、その動きが前方から後方へと移動して行く。そして一連のプログラムが終わると、体を包むラグビーボール型の繭が完成しているというわけだ。ところがだ。ここからが『固定的活動パターン』と呼ぶ所以なのだが、カイコの口から吐き出される粘液(それが空気にふれて糸になる)を口のなかで固まらせ、外へは出ない(つまり糸は吐けない)状態にしても、カイコは一連の頭部の動きを、糸を吐いているときと同じように行うのである。繭自体はまったくつくられていないにもかかわらず、だ。要するに外部刺激がなくても、内部プログラムだけで、型にはまった活動パターンが展開されていくのである」ということ。こういうパターンは動物の行動にしばしば出現することだという。シマリスが冬に備えて木の実などをかくして貯える習性がある。著者は室内でシマリスを飼っていた時に、この行動の途中で素早く種子を奪ってみた。すると、リスはカーペットの上で手で土を掘る動作をし頬袋から種子を吐き出し鼻で押し込み、土があるかのように埋めて押し固め、周囲に枯れ葉や小石があるかのように両手でかき集める動作をした。大変興味深い。ヒトにもこれに類した行動があるような気がする。