本の感想「川のある街」江國香織

本の感想「川のある街」江國香織朝日新聞出版)

 3つのストーリーを収める。登場人物が普段の生活の中で何を考えて過ごしているかを描く物語。3つめがよかったと思う。オランダに住む高齢の日本人女性は同性婚の相手を亡くして今は独居生活をしている。姪が日本から訪ねてくるその数日間を描く。主人公は高齢にともなって心身が次第に不如意になっていて、記憶は昔のことを覚えている反面、最近のことは覚えにくくなっている。霞がかかったような主人公の精神をうまく表現している。主人公には弟がいて、海外で一人暮らしをしている姉を案じている。とりわけ認知症の症状もいくらか発現しているので、日本に戻ってくるのがよいだろうと考えている。姪はそのことを主人公に伝える役割も担わされていた。主人公を見守っている人たちがいるのでなんとか生活が成り立っているものの、先々はどうなるのか本人にも明確な解決策はなく、これからのことを合理的に考えることももはやできなくなっているらしい。物語は異国で一人暮らしをする高齢者が主人公だが、これは極めて今日的な問題を扱っているともいえる。