本の感想「老いのかたち」黒井千次

本の感想「老いのかたち」黒井千次中公新書)2010_04刊

 読売新聞の連載エッセイでこのシリーズ4巻の1巻目に当たる。初出は2005年から2009年まで。

 「健康番組、もういいよ」ではともすると行き過ぎたことになってしまいがちな傾向に対して一言述べている。「老化を率直に受け止める姿勢が認められてもいいのではないか。もし健康な老化というものがあるとしたら、それが一番望ましいのではあるまいか。」

 「崩れゆく老いの形」では次のように述べる。「年相応に老いていくことの困難な時代が到来した。若さや体力ばかりが尊重され、歳にふさわしい生の形が見失われようとしている。幼年期や思春期や壮年期に、それぞれの季節にだけ稔る果実があるのだとしたら、老年期には老年の、老いに特有な美しい木の実があっても少しもおかしくはない筈だ。

 「品位ある老人、どこにいる」からの引用「風格の備わった品位のあるいかにも老人らしい老人はどこにいるか、と見廻しても、その対象者を発見するのは簡単ではない。(中略)おそらくなんでもないところに、ごく当たり前の顔をしてそんな老人は黙って生きているのだろう。あまり目立たないから、道を歩いていても、電車に乗っていても誰も気がつかないのかもしれない」