本の感想「かたばみ」木内昇

本の感想「かたばみ」木内昇角川書店)2023_08

 昭和18年から30年代初頭までのある家族の暮らしを描いたヒューマンドラマである。主人公の女性は若い頃は陸上競技やり投げの選手だった。選手生活を離れて初等教育学校で教員になった。軍国主義の教育には馴染めなかったが、教育活動に熱心に取り組んでいた。ひょんなきっかけで結婚することになり、更に思いがけない展開で養子を引き受けて息子を育てることになった。この家族が物語の中心になる。様々な登場人物と交流しながら、戦後の混乱期をなんとか生き抜いていく。それぞれが自分の人生観をしなやかに更新しながら、子どもが親に育てられるだけでなく、親が子育てを通して新たな気付きを得ていく。戦中・戦後の四半世紀を臨場感たっぷりに描いた長編小説で歴史ドキュメントのような読み方もできる。