誰かとの別れをテーマにした短編10作品を収める。「母のこと」は82歳で治療の方法のない癌を患った母のことを娘の視点で描く。治療法がないと知らされた母は不安になるというよりもむしろ自分の将来がしっかりと決まったことである種の安心感を得たようだった。残りの時間は死の準備のために生きるという方針が定まった。死に支度を手際よく進めて行った。娘はそれを見て複雑な思いを抱くが、結局のところ母のやり方に異を唱えることはない。やがて最期の時が訪れる。母はおそらくはほぼ自分の描いた筋書き通りに亡くなっていった。死後に母が残した生活の痕跡を見つけるたびに、母はもういないということに気付き驚いたような気持にもなる。この母のような死に方には共感を持てる。