本の感想「運命のコイン」ジェフリー・アーチャー  戸田裕之 訳

本の感想「運命のコイン」ジェフリー・アーチャー  戸田裕之 訳 (新潮文庫

 1968年ソ連レニングラードから物語が始まる。主人公はこの町で生まれ育った青年アレクサンドル・カルペンコで大学進学を目指していた。父親が港湾監督官で仲間とともに労働組合を結成しようと画策していた。その計画を阻止するためにKGBは父親を事故に見せかけて殺害する。アレクサンドルは母親とともに国外へ逃亡を決めた。密航船は2隻のあり、英国行きか米国行きかのどちらか。コイントスでどちらかを選んだ。

 英国に向かう船に乗ったアレクサンドルはサーシャという愛称を使うことにした。次のシーンは米国に向かう船に乗ったアレクサンドルで、読者はここで戸惑ってしまう。こちらではアレックスという愛称が使われている。つまりこの小説は2つのストーリーが交互に出てきて、英国に渡ったサーシャと米国に渡ったアレクサンドルとがそれぞれの人生の歩みを並行して描いている。つまりどちらも仮定の話という設定だと思えばいいのかもしれない。ところが、最後のシーンではサーシャとアレクサンドルが一つの物語に同時に登場してくるので無理筋が過ぎる。並行したそれぞれの物語は波乱万丈で読みごたえのストーリーである。並行した話を交互に繰り広げるのではなくて、別々のストーリーとした方がよかったのではないかと思った。