本の感想「百年の子」古内一絵

本の感想「百年の子」古内一絵(小学館

 小学館の社史を下敷きにして、同社と関わりのあった人たちの人間模様を織り込んだドラマチックな物語。昭和(戦中戦後の混乱期から)と令和(コロナ禍まで)とを交互に描き分けてストーリーが展開する。

 主人公は大手出版社(小学館のこと)に勤務する30代の女性で、やりがいを感じていた部署から異動させられて、不満を抱いている。異動先は会社の100周年企画の担当で、あまりやる気の出ない業務の中でたまたまある古い資料に祖母の名前を見つけた。果たしてこの名前が祖母本人なのかどうか、本人だとすればなぜそこに名前があったのか?このことをきっかけにして、過去が薄皮を剥がしていくかのように少しずつ見えてくる。

 戦中戦後に活躍した小説家や漫画家が実名または誰と分かる仮名で登場するので、出版界の歴史をドキュメント的にたどる面白さもあり、また、主人公を中心としてのファミリー・ヒストリーの面もしっかりと描かれている。小学館も戦争に翻弄され、戦後の復興期にも様々な浮き沈みがあった。様々な人たちがどんなふうに絡み合って社史や個人史を作って来たのかが巧みに描かれている。ストーリを活性化するために創造されたフィクションが程よくて「読ませる」仕立てが完成している。

 昨今は出版不況となって、街の書店もどんどんと数を減らしているのだが、書籍という形は維持されて欲しい。何でもデジタルデータ化されればいいというものではない。実態があることが自体が大切なことである場合も少なくないのだ。