本の感想「短くて恐ろしいフィルの時代」ジョージ・ソーンダーズ 岸本佐知子訳

本の感想「短くて恐ろしいフィルの時代」ジョージ・ソーンダーズ 岸本佐知子訳(角川書店)

  奇妙奇天烈な小説であるが、訳者によるあとがきにこういう説明がある。「ソーンダーズによれば、『短くて恐ろしいフィルの時代』が生まれたのは、イラストレーターのレイン・スミスから、「登場人物がすべて抽象的な図形であるような物語は書けるか?」と言われたことがきっかけだったという。(中略)あれこれ試行錯誤するうちに、ふとどこかから「昔あるところに、あまりにも小さいので一度に一人しか国民が住めない国があった」という文章が降って来た。するとそこから”小さい国と、それを取り囲む大きな国”という設定が生まれ、そして物語はじょじょに”大量虐殺にまつわるおとぎ話”という奇妙な姿をあらわしはじめたのだという。」

 登場する国民は人の形をしておらず、機械の部品や生き物のパーツを組み合わせたような異形に設定されている。登場人物が抽象的な図形になっているということ。国があれば為政者がいるわけでここでは小さい国を取り囲むより大きな国の為政者を詳しく描いている。国と国との関係とか為政者の狂信性などを絡めながらストーリーが進んでいくが、その様子は現代世界のあの国の為政者、この戦争の大義などを寓話化しているようだ。歴史を怜悧に洞察し、ドライな表現方法を駆使するとこういう寓話が出来るということになるのか。