本の感想「カムイ」半田菜摘

本の感想「カムイ」半田菜摘(日経ナショナル ジオグラフィック)

 北海道内の野生動物だけを被写体にした写真集である。傑出した出来栄えである。撮影者の半田氏のことを知ったのはNIKON Z9の発売時に公開されたメーカーのプロモーション動画でだった。病院勤務の看護師をされていて、休日にはカメラをもってフィールドに出るという2足の草鞋で活躍しておられる。プロモーションだから当然、Z9を使って撮影しているところが映っている。フィールドに分け入り、野生動物の残す何らかのサインを見つけて、習性や行動特性を見極め、ひたすらチャンスを待つ。何日も待っても思い通りの作品を撮れないことの方が多い。写真にも様々なジャンルがあるものだが、野生動物の撮影はその中で最も難易度が高いと言える。何せ相手は生き物なのだ。撮影者の注文通りに出現するわけはない。撮影者はフィールドにできる限り長い間滞在して、期待して待つしかない。機材の性能はできるだけハイスペックであるに越したことはないのであり、フラッグシップ機のZ9は半田氏にとっては発売後すぐに入手したかったに相違ない。おそらく、彼女にとって最も重要だったスペックは電子シャッター専用機になったことであったのだろう。スペックとしては随分思い切ったことをしたものだと思ったが、メカシャッターを併用しないことで、間違ってメカシャッタ―を動作させる心配はない。無音の撮影が可能になったことは大きなメリットだろう。

 どういう経歴の人なのだろうと興味があったが、本書のあとがきで少し分かったことがある。写真を本格的に始めたのが2013年というから撮影のキャリアは僅かに10年ちょっとということになる。練達の域に達するまでに要した時間が極めて短い。ちなみにZ9の発売は2021年である。それまでに相当の実力をつけていたことになる。写真家にとってメーカーのフラッグシップ機のプロモーションに抜擢されることがいかに名誉であるかは想像に難くない。気になって巻末の撮影データに目を通したが、3作品を除いて全てニコンの機材を使用している。Zシリーズ以前はD850 などの「ミラーあり一眼」を使用しているが、全体の半分ぐらいはZ9なので最近の作品が多く収められていることになる。ニコン以外の3作品のうち2つはCANON EOS R5で、残り1つはSONY α7Rとなっていた。

 フィールドとの関りはと言うと、以前は趣味で釣りをしていたということだ。渓流釣りだとかなり山に分け入るようなこともあったのだろう。そういう体験を経て、野生の生命を見る目を養っていったらしい。

 半田氏が勤務する病院は移転して新しい建物になった時に、彼女の作品をロビーに展示する設備を作ったのだという。なかなか粋なはからいをする病院があるものだ。こういう周囲からのサポートは写真家にとって大きな励みになるものだ。今後の活躍を大いに期待したい。