本の感想「カレー移民の謎」室橋佑和

本の感想「カレー移民の謎」室橋佑和(集英社新書ノンフィクション)

 全国に数千件ぐらいあると言われるネパール人が経営するインドカレー店について徹底的な取材をしたルポである。2010年ごろにこのような店が急増していった。急増の仕組みは成功した店舗をそっくりコピーして別の店ができるという細胞分裂のようなやり方を繰り返していったからだという。そもそもネパールは自国で働き口が不足していて、出稼ぎ大国という事情がある。行先は稼げる所ならどこでもいいのだが、日本でカレー店で成功したモデルケースが国内に紹介されたことで連鎖的それが人気になったのだという。そいういうカレー店で雇われたネパール人がやがて「のれん分け」のような形で独立する。さらには家族を日本に呼び寄せる。そういう連鎖が出来上がっていった。昨今、この傾向はやや頭打ちになってきている。というのも、日本で暮らすことで様々な困難と向き合うことになっているからだ。外国人の就労に関する規制、家族を呼び寄せた場合には子供の教育の問題、日本の滞在が長くなると故国に残してきた親世代の高齢化などだ。ビジネスに成功して帰国するケースもあるし、困難を乗り切れずに帰国するケースもある。

 著者は日本への出稼ぎ者が多いネパール中部のバグルンを訪ねた。そこは「カレー出稼ぎ」が始まる前までは長閑な山村の暮らしが息づいていた。現地で日本語学校を営むクリシュナさんが言う。「バグルンからたくさんの人たちが日本に行っています。だから小さな村はもう、働き手がいなくなって、年寄りばかりなんです。おじいちゃんおばあちゃんたちが、日本に行った子供の代わりに孫の面倒を見ている。親の愛情を知らずに育つ子供がどんどん増えている。」村の若者が丸ごと日本に行ってしまったような集落もあり、畑は荒れ、空き家が残され、老人ばかりで山間部に暮らせなくなりバグルン・バザールに降りてくるケースが増えている。「村では野菜や米くらいは自分たちで育てられたから、お金があまりなくても生活ができたんです。でもバザールでは違います。何でもお金を出して買わなきゃならない。現金が必要です。だからまた若者たちが出稼ぎに行く」。日本の消滅可能性のある集落がかかえる状況に通底するところもある。

 入念な取材でネパール人のカレー店の内情を明らかにした力作である。