本の感想「鳥と港」佐原ひかり

本の感想「鳥と港」佐原ひかり(小学館) 2024_06刊

 大学院を出て会社勤めをしたが会社に適合できず9が月で退職した25歳の女性と、不登校の男子高校生があるきっかけで知り合いになった。二人は有料の文通をビジネスとして起業した。ある有職者がSNSでこの情報を取り上げたことがきっかけで多くの顧客が二人との文通を求めるようになった。物語はこのビジネスを中心にして、二人の周辺部の様々な状況を絡めながら進んでいく。何か大きな出来事が起こるわけではない。二人の主人公がどんなことを考えているのかも丁寧に描かれる。やがて顧客の数が想定を超えるようになりこのままでは業務が継続できなくなる恐れが出来した。

 全体におとなしい印象の物語だが、文通という昔風の文化を小道具にして展開するストーリーは落ち着いた面白さがあった。メールの方が安くて便利でも手紙に魅力を感じる人はそれほど少ないわけでもないのかもしれない。