本の感想「台湾漫遊鉄道のふたり」楊双子

本の感想「台湾漫遊鉄道のふたり」楊双子 三浦裕子 訳(中央公論新社

 昭和13~14年の台湾社会を日本の小説家の現地滞在記の形で描く。小説家は自身の作品が映画化されて台湾でも上映されたことがきっかけで、当地の文化団体から招待を受けた。1年余りの滞在中に各地で講演会を開くことが条件となっていた。作家には通訳として現地スタッフが付く。結婚を控えて小学校の教員を退職したという若い女性で語学のみならず台湾の歴史や漢籍にも造詣が深くさらには料理の腕前もプロ級というマルチスキルの人物。物語は作家とこの通訳との二人の女性の間の「親愛」をテーマにしている。作家はこの通訳を知れば知るほどに惹かれていき、親友になりたいと思うようになっていった。しかし、通訳は決して仮面を外そうとしない。作家はその原因は何なのかを探るのだが、よく分からないまま二人の関係が続いていく。通訳は作家を尊敬していて業務は完璧に行い、本来業務以外にも料理の腕前も披露して、作家からはさらなる「親愛」の情を向けられることになった。お互いに人間的な魅力を感じつつも、作家側からは目に見えない壁があった。それは植民地支配下の台湾で、支配する側と支配される側との立場の違いだった。作家はずっとそのことに思い至らなかった。

 ストーリにリアリティをもたらしているのは、台湾料理の詳細な記述である。グルメリポートと言っていいレベルだ。小説家は比類なき健啖家であり、美食への情熱にあふれている。解説によるとこの物語で紹介されている現地料理は今でも楽しめるものだと紹介されていた。

本の解説で「百合小説」という言い方が出てきた。何のことか分からなかったが、女性同士の「親愛・友情」を描いた小説ということだそうだ。