本の感想「谷から来た女」桜木紫乃

本の感想「谷から来た女」桜木紫乃文藝春秋)2024_06刊

 短編6作品を収める。それぞれにアイヌの出自の登場人物がいてストーリーの中核になっている。書名の「谷」は二風谷をモデルにしている。6作品の最後は「谷で生まれた女」というタイトルで、アイヌの伝統的なデザインを使ってアート作品を作成する女性が主人公である。その女性がテレビクルーの取材を受けて、取材も好きでなく、メディアも信じていないのに取材を受けて下さるのは何故か?という問いに答えたセリフが「谷に生まれ谷で育ったことを公表している人間の、義務だからです。出自を隠して生きなくてはいけない人がひとりでも減るよう、祈りながらやっています。私は民族の代表でもなんでもないし、どちらかといえばシサムに対しての負の感情は薄い方なんです。自分が何者であるかは、この手から生み出したものが後々語ってくれることだから、自己表現とも違う」とのこと。数年前に白老町に「ウポポイ」という国立の施設が開設された。アイヌの文化を紹介し保存に努めるという目的の施設だ。国の対アイヌ政策には歴史的には不当なものがあった。こういった施設を運営することが過去の贖罪になるわけではない。アイヌに関わる行政の在り方が過去の歴史へと変換されてはならないと思う。今を生きるアイヌの人たちの生きずらさを見ないふりをしているところが今もあるとすればそれは行政の不手際に他ならない。