本の感想「神様のカルテ3」夏川草介

本の感想「神様のカルテ3」夏川草介小学館)2012_08

 シリーズの第3作目。主人公の勤務する病院ではすこしまえに亡くなったベテランの内科医の補充としてやり手の女性医師が赴任する。東京から移って来た友人の医師は家族のトラブルをかかえているもののしだいに病院勤務にも慣れてきている。もう一人の友人の外科医は大学の医局に戻ってくるようにと指示を受けている。主人公は新たに同僚となったやり手の医師に啓発されるところもあって、自分も医局に入ることを思案するようになっている。そういう中で、普段の業務は様々な出来事をはらみながら止まることはない。この物語では、この病院で亡くなる高齢者が登場するが、どのように生きてきてどのように死んでいくか、それぞれに固有の背景があることが描かれる。どんな場合でも当事者や周囲の人が100%納得できる死というものはおそらくないのだろう。しかし納得の度合いを高めることは重要なことであり、その方法もきっとなくはない。主人公たちはそういう医療を提供しようと苦悩し尽力する。ある大掛かりな手術が成功裏に終わった後で、その手術の実施が適性だったかどうかを問われることになった。その時かの女性医師は手術の判断が適切だったことをいささかの迷いもなく発言した。そのことから主人公は次の気づきを得た。「小幡先生がこの冷たい目を向ける対象は、命を軽んずる全ての人間だということである。相手の立場など関係ない。医師であろうと患者であろうと、たとえ事務長であろうと、命の真摯さを失い、時に軽んずる者に対して向けられる根源的な嫌悪であり反発であった。」

 このシリーズのストーリーの面白さは言わずもがなである。