本の感想「大転生時代」島田雅彦

本の感想「大転生時代」島田雅彦文藝春秋)2024_08

 主人公の女性は飲食店である男性に話しかけられた。どこかで会ったのではと言われたが覚えがない。食事を終えて店を出ると自宅のカギを店に忘れたことに気付く。あわてて店に戻るとすでに閉店していた。すると先ほどの男性が、戻って来ると思った、と言ってカギを持って現れた。その男性が中学校の同級生だったと思い出した。その後何度か会う機会をもったが、男性は別の世界からの転生者と身体を共有していると打ち明けた。一つの身体に二つの人格を有しているということ。我々のいる世界の他にもいくつものパラレル・ワールドがあり何かのきっかけで別の世界へ転生することがあるのだという。その場合にはこの男性のように「二重人格」が形成される。こういう転生者をサポートする組織があり、主人公の女性はそこで働くことになった。転生の仕組みはこう解説されている「私たちが『意識』と呼んでいるものは、あなたが生まれる遥か以前から存在しており、過去に無数の肉体に宿り、乗り換えを重ねてきたのである。あなたは今まで他人の体に宿っていた意識を不意に我が身に引き受けたのだ。生きているあいだはその意識のユーザーになるが、あなたの死後、その意識はまた別の誰かの体に乗り移ることになる。それが転生というものなのだ。」とのこと。仏教の輪廻転生にも似ているし、DNAが生命体を乗り物にして世代を継いでいくというアイディアにも似ている。また、この仕組みを応用してある人物の総合的な情報をデータ化してアバターを作り、それを別の世界へ送り込むことも可能になる。こういう転生のテクノロジーを利用して陰謀を企む者も登場する。主人公たちはその一味と接触して企みを阻止するために動き出す。

 全編を通して現代が抱える様々な問題や状況を風刺する寓話が織り込まれている。そのことにどれだけ気付くことができるかがこの作品の読みどころとなると思った。