本の感想「正しき地図の裏側より」逢崎遊

本の感想「正しき地図の裏側より」逢崎遊(集英社

 主人公が高校生の時からその後の数年間を追った波乱のストーリーである。主人公は父親と二人暮らしだった。母親は主人公が幼い頃に離婚している。父親はトラックの運転手だったが仕事中に事故を起こしたことで離職して、その後は定職についていなかった。定時制高校へ進学した主人公は働いて生活費を稼ぎ、少ないながらも将来のために貯蓄もしていた。ある時、貯めていた8万円ほどのお金が無くなっているのに気付いた。警察から電話があり父親が泥酔して保護されているから迎えに来るようにと伝えられた。父親が自分のお金を盗って酒を飲んだのだ。帰り道に父親はあることを主人公に告げた。そのことで激怒した主人公は父親を叩きのめし雪のなかに放置した。親を殺したからには自宅のある町から逃げるしかない。こうして主人公は逃亡生活に入る。故郷から十分に離れた見知らぬ町で名前を変えてホームレスたちに混じって暮らすようになった。その後、別の町に移り日雇い労働に従事する。やがて一人の年配の男性と懇意になり一緒に商売をすることになった。屋台のたこ焼き屋を始めるとその商売は軌道に乗る。ある時主人公が相棒になった男性に自分の過去の経緯を話すと、その男性も思いがけないことを話しだした。

 物語の展開が上手く一気に最後まで読むことが出来た。主人公と彼を取り巻く人々たちはそれぞれに厳しい状況にありながらも自分自身が大切にしている何かがある。とても真っすぐで細くても折れない。読みごたえのあるヒューマンドラマに仕上がっている。