本の感想「繭の中の街」宇野碧

本の感想「繭の中の街」宇野碧(双葉社

 短編7作品を収める。恋愛小説と言ってもいいのかもしれないが、と言うよりは異世界との遭遇を描くというほうがよさそう。神戸の街を舞台にして人々の交錯を描く。読後感としてあまりスッキリした印象にはならない。むしろモヤッとしたものが残る。1作品だけ少し詳しく述べる。「赤い恐竜と白いアトリエ」の主人公の女性は港のガントリークレーンのオペレーターである。高校生の頃に美大への進学を考えていてある画塾に通っていた。そこで講師をしていた男性に憧れる気持ちをもった。時を隔てて偶然にその男性と再会した。かつて自分はこの男性に捨てられたのだという意識があり、失ったものを返して欲しいという気持ちに囚われる。復讐するべきなのかどうか。ある出来事を経て二人は互いに離れ離れになるが、主人公はたまたま訪た美術館であの男性の作品を見つけた。