本の感想「笑い三年、泣き三月。」木内昇(文藝春秋)2011_09
戦後の混乱期に浅草の6区で身を寄せ合って暮らしていた芸能関係者たちの物語。上野駅に一人の芸人が降り立ったところから始まる。彼は地方で芸人として鳴かず飛ばずでやっていたのだが東京で成功したいという野望をもっていた。駅から出ると一人の浮浪児に話しかけられた。その子供は浅草まで案内すると申し出た。二人は焼け跡を目的地まで歩いた。浮浪児は戦争で家族を亡くしていた。日々の食べ物を得ることもままならなかったのでこの男をカモにしようと目論んで話しかけたのだった。浅草に着くとこの芸人と子供は成り行きである小さな芝居小屋で一緒に働くことになる。住宅事情も悪いので小屋で働く面々が寄り集まって一緒に暮らした。芸人の男性はこの子供は不愛想でとっつき憎さがあるものの実はとても気立てがよくて向学心もあることに気付いていく。子供の方もこの男性を慕い頼りにするようになっていった。物語は食うや食わずの生活から徐々に安定した暮らしに向かっていく人々の様子を調和と不調和とを交差させながらリアルに描く。やがてこの二人にもそれぞれに次のステップへ進む時が近づいて来る。
戦後の動乱期を浅草で働く芸人たちの暮らしぶりを通して巧みな物語を構成している。戦災孤児の少年と野望を抱きつつも挫折を繰り返す芸人との疑似親子のような関係にフォーカスする感動的な物語だ。