本の感想「時々、慈父になる。」島田雅彦(集英社)2023_05
1995~6年からコロナ禍の始まりぐらいまでを描く自伝的な小説である。どこまでがフィクションでどこまでが事実なのかは境目が分からないが、概ね本当にあったことを元にしていると思われる。始まりは息子の誕生からになっている。息子の成長を描きながら世の中の出来事を論評していくというスタイルが基本になっている。島田氏自身の「秘話」のようなことも記してある。およそ四半世紀に渡って日本社会がどのように変遷して行ったのかを独自の視点から解き明かしていく。長期にわたって首相の地位にあった安倍晋三については次のように評しているが、あまりに率直なので笑ってしまった。「殺された安倍晋三元首相は顕彰すべき功績など一つもなく、無駄に最長在任記録を作っただけで、その間に民主主義と経済を破壊した。GDPや民間の所得、年金は下落し、失業率、貧困率、犯罪率、倒産、自己破産は増加、数々の疑惑に対し、国会で虚偽答弁を重ね、公文書を改竄、破壊し、公金を乱用し、バラマキ外交に終始し、ロシアとの領土交渉に失敗し、ポンコツ爆撃機の爆買い等、米政府のATMとして奉仕し、改憲と軍備増強を訴え、レイプ事件のもみ消しを図るなどの悪行を重ねた。」読み甲斐のある作品だと思う。