本の感想「対馬の海に沈む」窪田新之助

本の感想「対馬の海に沈む」窪田新之助集英社)2024_12

 海に沈んだのはJA対馬でLA(Life Adviser)として勤務していた人物である。彼は様々な保険業務で不正に補償金を引き出すことで22億円を超える横領を行った。不正のやり口は見事な奇術のようなものであり仕組みの脆弱性をとことん見極めて抜け穴を利用した。不正請求で得た金額の一部を顧客に還元することで得た厚い信頼を利用して雪だるま式に扱う金額を増やしていった。やがて不正が発覚しそうになったところで、2019年に運転する車で海へ沈んだのだった。自殺だと思われている。私にはこのニュースの記憶がない。おそらくは全国ニュースで大きく報道されていた筈だ。その時は関心を持ったのかもしれないが、間もなく忘れてしまったのだろう。保険金詐欺という犯罪は珍しくないし、金額の大きさは破格であるにしても後追い報道もそれなりで終わってしまっていたと思われる。実際に今でもこの人物が蓄財したお金が最終的にどうなったのかは未解明の部分があるとのことだ。こういう過去に埋もれてしまったケースを徹底的に取材したのが本書である。よくここまで追求したものだとも思うし、それでもまだ解明できないことが多いのだからこの犯罪の根深さに呆れてしまう。そしてこの人物が亡くなったことで結果として「トカゲのしっぽ切り」になってしまったとも言える。このような大規模な不正は彼一人だけの責任ではなかったはずだ。様々な制度的欠陥やLAと顧客の関係性の歪み構造も犯罪の温床となっていた。海に沈んでしまった「謎」の深さに暗澹たる思いがする。