本の感想「先生、ヒキガエルが目移りしてダンゴムシを食べられません!」小林朋道

本の感想「先生、ヒキガエルが目移りしてダンゴムシを食べられません!」小林朋道(築地書館

 外れのない「先生、シリーズ」の17巻目。書名になっているヒキガエルの捕食行動についての実験は以下の通り。ヒキガエルは広めの水槽で飼育し、餌容器として実験用のシャーレを置く。最初は餌としてダンゴムシを1匹餌容器に入れる。ヒキガエルは動き回るダンゴムシに反応してしばらく凝視すると電光石火で捕食する。次はダンゴムシを2匹餌容器に入れる。カエルは餌容器に近づき2匹のダンゴムシを交互に狙いを付ける。しかし、どちらをターゲットにするかの判断がつかず結局のところ捕食行動には至らない。次に8匹ほどのダンゴムシを餌容器に入れる。「群れ」のように動き回るダンゴムシを前にしてカエルは固まってしまった。このことからは「エサになりやすい、そして、隠れることもあまりできない動物たちが群れやすい理由ではないか」という説が導き出される。ライオンがシマウマの群れを襲うとき、群れの周辺を回りながら刺激を与え、単一の個体が群れから離れてしまうようにすることがある。おそらくより逃げる力の弱い個体が狙われることになるのだろう。この実験では8匹のダンゴムシは逃避能力において顕著な差がなかったのではないだろうか。カエルから最寄りの位置にいてあまり動かない個体がいれば捕食されたのだと思うが、ランダムに動き回る8匹から最適解を選び出すことはカエルにとって困難だったのではないだろうか?

 もうひとつの印象的なエピソードはコロナ禍で大学が閉鎖になっていた夏のある日のこと。飼育していた高齢のヤギが小屋の中で死んでいるのが見つかった。見つけたのは著者だった。家畜として登録してあるヤギだったので死体を家畜保健衛生所に連れて行かねばならない。この日は金曜日だったのでこの日のうちに連れて行かなければ月曜まで放置しておくことになってしまう。家畜保健衛生所に連絡をとると17時までに連れてくるようにとの指示を受けた。ヤギ部のメンバーへLINEで連絡すると4人が直ぐに集まってくれた。大学が閉鎖になっていたのだが緊急対応で学生が校内に入ることができた。著者とヤギ部のメンバーたちが粛々とやらなければならない処置をしていく様子と一緒に飼われていたヤギたちの様子とが目に浮かぶように記されている。生き物と関わることとはこういうことなのだ。合掌。