本の感想「凱風館日乗」内田樹

本の感想「凱風館日乗」内田樹河出書房新社)2024_05

 信濃毎日新聞週刊金曜日に2022年の春からこれまでの約2年間連載したものをまとめてある。3章に分かれていて「日本が抱える困難について」「世界はこれからどうなるのか?」「日本救国論」となっている。

「政治と市場は教育に関与してはならない」では次のように主張する。「政治やビジネスは『複雑系』である。わずかな入力変化が巨大な出力差になる。(中略)教育や医療や司法や行政などの『社会的共通資本』は複雑系ではない。それらの制度は定常的であること、入力の変化があっても動じない硬直性がむしろ優先される。」この指摘はもっともであるのだが、あいにくと現状は「社会的共通資本の硬直性」が随分とやわにするような行政がまかり通っている。

「死に方上手」では「年を取ると病気になるというのは『適切な治療をすれば原状に回復する』一時的な失調ではなく、身体部位の一部がそのまま欠損し続けることを意味する。(中略)加齢がある点を超えると、人は『生きている』というより『まだ死んでいない』という状態になるのである。それゆえ、機能不全になった自分の身体に慣れることの上手な人が楽に老後を生きられる。そういう人を『死に方上手』というふうに呼んでよいかと思う。」この説にも納得させられた。