本の感想「銀河の片隅で科学夜話」全卓樹

「銀河の片隅で科学夜話」全卓樹(ぜん・たくじゅ)朝日出版社

 2023年新作の「渡り鳥たちが語る科学夜話」の前著にあたる2020年の出版作品。この作品が好評だったことで「渡り鳥たちが語る科学夜話」の出版につながった。私は出版の順番と逆の順番で読んだことになるが、そのことで不都合はなかった。「渡り鳥…」の感想にも記した通り、著者の文章は端正で美しい。音楽の演奏に例えれば、オーケストラか奏でる豊かなハーモニーではなくて、練達のソロリストが超絶技巧で奏でる研ぎ澄まされたサウンドだと思う。全く見事なもの。

 夜話は全部で22話収められている。アリについては2つの連関する話が紹介されている。アリはヒト同様に社会を作る生態をもつ。果たしてアリにも悟性のようなものがあるのか、アリの社会性は単に本能的なオートマチックな一連の結果なのか。著者と学生が論戦した。ヒトが考える「悟性」とは別の何か「悟性的なもの」があるのかもしれず、それはヒトの「悟性」では認知できないであろう。