本の感想「手紙」ミハイル・シーシキン

本の感想「手紙」ミハイル・シーシキン 名倉有里 訳 (新潮社)

 分かりにくい作品だった。2人の書き手による書簡形式をとっているが、いわゆる「往復書簡」ではなく、それぞれに「片道書簡」になっている。従軍しているワロージャとその恋人に設定されているらしいサーシャとがそれぞれに一方的に書いているので、手紙の内容は全くかみ合っていない。したがって、作品を通して骨太のストーリーが通っているわけではなく、それぞれの書簡が断片的な一場面を作っている。前半部分は、ワロージャが語る戦線の凄惨さが読みどころだろう。後半になると、サーシャの書簡は何の断りも説明もなく書簡の形式から回想の文体へとシフトしてしまう。この辺りもなんだか読みにくさを感じた。

 訳者あとがきから少し引用する。「多作な作家ではない。(中略)それにもかかわらず、シーシキンは今ロシアで最も敬愛されている作家の一人だと言われている。発表した作品はことごとく批評家や一般読者の注目の的となり、(中略)2010年の夏に発表された本書もまた、文化人を中心に大きな反響を呼んだ。」ということで、本作品は文化人向けだったようだ。つまり、読み手を選ぶ類の作品なのだ。残念ながら、私は読み手に選ばれなかった。