本の感想「大造じいさんとガン」椋鳩十

本の感想「大造じいさんとガン」椋鳩十 (大日本図書)

 表題作を含めて4作品を収める。他の3作は「山の太郎グマ」「月の輪グマ」「片耳の大鹿」。タイトルに記憶があるので、いずれも子供の頃に読んだことがあるのだろう。どの作品も人と野生動物との関りを描く物語になっている。両者の関係は決して人が優位で動物が劣位という位置づけにはなっておらず、人が動物に対して抱くリスペクトを示している。昨今は人間同士の関係であってもどちらが優位かということが意識されることが多いように思われる。「マウントを取る」などという言い回しが使われるようになったのもその現れであろう。そういったタテの関係性を気にしていると、ヨコの関係性は見落としてしまいがちになる。大造じいさんはガンに「ヨコの関係性」を見出したことで自分自身の精神性をより高めることができた。

 この本は図書館の閉架に所蔵されていた。普段からよく読まれる本ではなくなったということだ。今はこういう本は子供たちがなかなか手に取ることがないのだろう。だとすれば、とても残念なことだ。これからも長く読み継がれて欲しい作品だと思う。