本の感想「<旭山動物園>革命」 小菅正夫

本の感想「<旭山動物園>革命」 小菅正夫(角川書店

 著者はNHKR1の人気番組「こども科学電話相談」の動物ジャンルの回答者のひとり。今は札幌市円山動物園の参与だが、この本の出版時には旭山動物園の園長の役にあった。

 旭山動物園が動物の行動展示を軸に据えて、来園者を増やすことに成功したのは有名な話である。その当時の園長が小菅氏だった。この本ではその流れを説明していてそれはとりもなおさず、沈みかかった組織の再生と発展のストーリーだ。なぜそういうことができたのかを一つの組織論としても語っている。それとは別に小菅氏ら現場で働いてtいる人たちの取り組みや動物に向ける心情がよく読み取れる。例えば、小菅氏自身の動物園観は「全国の動物園の動物というのは、個々の動物園の所有物ではないということをわかってほしかったのだ。全国の動物園は一つの組織のようなもので、個々の動物をたまたま預かっているという認識なのだ」とある。こういう認識のもとに動物園間で繁殖のために動物を貸し借りしたり、よりよい動物園を作るために共同研究したり情報交換を密にしたりしている。広い意味でそれはアニマル・ウエルフェアに繋がっているのだろうと思う。究極的な論議として、「動物園は無くするべきでそれがアニマル・ウエルフェアとしては最善なのだ」という説もある。確かに一理あるのだろうという気もするが、私は動物園はあった方がいいと考えている。野生動物が生息する地域を訪ねる以外に、生きた動物と出会う機会がないのだとしたら、結局のところ動物への愛着や関心が希薄になってしまうと思うからだ。そしてこの本を読めばよく分かるが、他の誰よりもアニマル・ウエルフェアを真摯に願っているのは動物園で生きた動物に接している人たちだろうと信じることができるからだ。