本の感想「プリズン・ドクター」岩井圭也

本の感想「プリズン・ドクター」岩井圭也(幻冬舎文庫

 刑務所に常駐する医師の物語で、序章、終章の他に4つのエピソードを収めている。世の中にはこういう仕事があるのかと新しい知識を得た。実際のところ、今はどういう状況なのか分からないが、この物語では、刑務所に常駐する医師は慢性的に不足していて定員を満たしていないのだそうだ。おそらく病院勤務の医師よりも収入面では不利なのだろう。

 主人公は医学部を出て最初に就いたのがこの仕事だった。3年間勤務すれば奨学金の返済が免除になることでこの道を選んだ。最初は戸惑いが多かったが、収監されている人たちを深く知ることで、次第に仕事にやりがいを覚えていくようになる。主人公には痴呆症状のある母親がいて介護しながらの勤務を続けている。医学部の同級生だった友人たちや、薬剤師をしている恋人に支えられながら、様々な困難に対峙していく。

 ミステリー仕立てのエピソードはいささかトリッキー過ぎるような印象もあるものの仕立てはよくてエンターテインメント・ミステリーとして完成している。