本の感想「超デジタル世界」西垣通

本の感想「超デジタル世界」西垣通岩波新書

 どのような専門的な分野でもその専門性を語る時にはいくつかの違った見解があるものだろう。一般の人たちに分かり易い説明ができているか、信用性があるかも問われる。西垣氏はデジタル世界の解説者として信頼できる専門家の一人だと思う。

 この本は専門書ではなく一般向けに書かれているが、数学的な理論に触れているところは難しくて分からなかった。全体的にもスイスイと分かり易く読めるとは言えないのだが、論旨の流れは概ね分かったような気がする。様々な領域の知見を展開しながら、デジタル世界の現状分析をして問題点を明らかにする。例えば、2016年のアメリカ大統領選挙における「トランプ現象」を読み解いている。ネット上でロシアが関係しているとか、Qアノンの関与とか指摘されているが、どういうからくりがあるのかはよく分からなかった。シンプルにまとめると次のようなことだった。「このデータ分析会社は、トランプ陣営のためにデジタル情報や広告制作をおこなっていた。その際、フェイスブックから約8700万人(大半は米国人)の個人情報を不正な手段で入手したことが判明した。(中略)トランプ支持者とみられる人々を特定し、大統領選挙にターゲットを絞った心理作戦を展開した(中略)抽出された人々はたくみに誘導され、トランプに投票するように洗脳された。」こういう戦略がデジタル社会の功罪の罪の側面として現実になっている。

 日本のデジタル化はどうあるべきかという提言があり、ひとつは一般の人々が安心して利用できるネット環境の整備だとする。さらに長期的に求められることとして、情報教育の深化と見直しを指摘している。「人間が生きるリアルな世界よりも、コンピューターのつくる仮想現実が第一義だ、といった妄想にはまり込むのを避けねばならないこと。日本文化は技術を通じて自然を再認識し、リアル世界を豊穣にする視座を有してきた。日本のデジタル化がめざすべきなのは、そういう方向性の探求ではないだろうか」と述べている。