本の感想「街場の成熟論」内田樹

本の感想「街場の成熟論」内田樹 (文藝春秋

 内田氏が色々な媒体で書いた論考をまとめたもので、内容によって5つのジャンルに分けてある。I ウクライナ危機後の世界 II 沈みゆく社会 III 成熟について IV ジェンダーをめぐる諸相 V 語り継ぐべきこと、となっている。

 内田氏の文章を読んで感じるのは、歯切れの良さと、よく整理された思考だと思う。例えば、「選挙と公約」ではこう述べている。「今の日本の有権者の多くは得票数と政策の成否の間には相関があると信じている。「選挙に勝った政党は『正しい政策』を掲げたから勝ったのであり、負けた政党は『間違った政策』を掲げたから負けた」という命題がまかり通っている。(中略)有権者たちは「勝ち馬に乗る」ことを最優先して投票行動を行っている。その「馬」がいったいどこに国民を連れてゆくことになるのかには彼らはあまり興味がない。自分が投票した政党が勝って、政権の座を占めると、投票した人々はまるで自分がこの国の支配者であるような気分になれる」とまとめてある。被選挙権が引き下げられた時に、ある大学の教員が学生たちと話していて気が付いたことがあったという。学生たちは自分が投票した候補が落選してしまうと、自分の投じた票が無駄になったと考えるようだというのだ。あたかもテストの正解を外してしまったかのような気持ちになるらしいと感じたという。内田氏の論考と通底する。

 「安倍政治を総括する」においては先の論考に具体例を示している。「選挙での得票の多寡と政策の適否の間には相関はない。亡国的政策に国民が喝采を送り、国民の福利を配慮した政策に国民が渋面をつくるというような事例は枚挙にいとまがない。政策の適否を考慮する基準は国民の「気分」ではなく、客観的な「指標」であるべきなのだが、安倍政権下でこの常識は覆された。決して非を認めないこと。批判に一切譲歩しないこと。すべての政策は成功していると言い張ること。その言葉を有権者の20%が(疑心を抱きつつも)信じてくれたら、危険率が50%を超える選挙では勝ち続けることができる」

 とても分かり易い説明である。だから選挙で有権者がどういう投票行動をとるべきかもそれほど難しい判断ではないはずだ。