本の感想「泳いで帰れ」奥田英朗

本の感想「泳いで帰れ」奥田英朗(光文社)

 2004年のアテネオリンピックの観戦記で雑誌「小説宝石」に掲載されたものを書籍化した。随分と昔のことであるし、元々オリンピックにはあまり関心がないし、2020東京オリンピックのすったもんだでIOCが質の悪い興行屋だと明らかになってからはオリンピック廃止を望むようになった。それなのにこの本を読むことにしたのは、三浦しをん氏が面白いと書いてあったからだ。今はあまり読まれていない本なので図書館では閉架に入っていた。観戦記だが著者は競技の専門家ではないから素人目線で書かれていて、一番メインになっているのは野球である。結果は3位だったのだが1位を期待されていた。「泳いで帰れ」というのは日本チームが敗れた準決勝の対オーストラリア戦の戦いぶりがふがいなかったことに起因する。要するに負けっぷりが悪かったということ。つまらない戦術を取ったということ。オリンピックは言うまでもなく「興行」である。観戦者は入場料を払って見るものだ。アスリートは純粋にプロでない場合もあるのだろうが、出場する以上は少なくともオリンピックの(興行的な)プレイヤーである。野球のように監督采配で戦術を選べる競技であれば興ざめするようなプレーをしてはいけない。勝ち負けよりもワクワク感や潔さを貴ぶべきなのだ。この試合では日本チームはその点で不合格だった。だから「チームは地中海に飛び込んで日本まで泳いで帰れ」と著者は怒って叫んだのだった。オリンピックにも野球にも関心が薄いので個人的にはどうでもいいものの、確かに泳いで帰れるのであればそのほうがいいと思う。喜望峰周りだと距離が長すぎるからスエズ運河経由でしょうね。