本の感想「オール・ノット」柚木麻子

本の感想「オール・ノット」柚木麻子(講談社

 日本の現代から近未来までの設定になっている。ファミリー・ヒストリーとそれに絡む主人公の女性の半生を描いている。

 主人公は経済的に余裕のない状況で高校時代を過ごした。在学中からアルバイトをし、家事もこなしながら成績は優秀であった。大学進学には奨学金を借り、複数のアルバイトもして学費と生活費とを自身で工面した。大学は観光学科を選び、在学中に就職内定を得ていた老舗ホテルはコロナ禍の影響で廃業になり就職が叶わなかった。

 主人公とは様々な人物との絡みがある。ちょっと登場人物が多すぎで関係性が分かりにくくなってくる。簡単な関係図を作りながら読むほうがいいかもしれない。近未来の日本社会はかなり現実味がある。貧富の二極分化は進み、温暖化も深刻化する。富裕層以外は子供を持つことも叶わない。あるいは富裕層の多くは海外へ流出する。社会の凋落のリアルはこういうふうなものなのだろう。