本の感想「動物翻訳家」片野ゆか

本の感想「動物翻訳家」片野ゆか集英社

 動物園の飼育員たちが動物たちの生活環境を向上させるために行った様々な工夫と実践を丁寧に取材したルポルタージュである。4件の実例がまとめてあり、対象の動物はフンボルトペンギンチンパンジー、アフリカハゲコウ(コウノトリの仲間で大型のトリ)とキリンである。旭山動物園が「行動展示」を積極的に推進したことで入場者を増やしたことは有名だが、「行動展示」自体は動物たちの生活環境を向上させることに端を発した。かつては大方の動物園では動物を単に生かしておく環境しか整えられていなかったが、そのことで動物たちは常に強いストレスを抱えていた。この本に登場する飼育員たちは「動物福祉」に真剣に取り組み、国内の状況も随分と変わってきている。飼育動物の「幸福な暮らし」を実現するための具体的な方策を「環境エンリッチメント」と言う。飼育員たちは先例のないことには試行錯誤を繰り返し、時には失敗も重ねる。それでも次第によりよい方法を見つけ出していく。環境エンリッチメントには当座の正解はあるのだが、よりよい正解には終わりがない。こういう実践に取り組んでいる飼育員たちがいる限り、飼育動物たちの環境は少しずつよりよいものになっていくのだろうと思わされた。著者は犬好きで犬に関する書籍が他にも出版されている。