2023年の映画

2023年の映画

「生きる LIVING」黒沢監督作品のリメイク。ストーリーがしっかりしているし、キャストの演技もよいと思った。見て満足できる。ひとつとても気になったことは列車内の映像で、まったく揺れがない。コンパートメントに座って仕事の同僚たちが話をするシーンが何度かあるのだがまるで静かな室内であるかのよう。ここはもう少し丁寧に臨場感を出すとよかった。

「パリタクシー」タクシードライバーと乗客になった老齢の女性との味のある会話がいい。特に女性のウイットの利いたセリフには惹かれる。乗車時にはぎこちなかったドライバーの対応がだんだんと客のペースに巻き込まれていく。この変化具合が絶妙である。パリのタクシー運転手がどんなふうに運転しているのかもなかなかの見どころだった。この作品は「生きるLIVING」を見て30分ほど休憩して続けて見たのだが一向に疲れなかった。2本とも満足できる作品だったからだ。

「怪物」是枝監督の作品ということで期待して見た。「万引き家族」はとてもよかったので。だが、この作品は外れだった。学校のいじめを複数の視点から捉えるというのはやり方として悪くないのだが、全体的にスカスカ感があって重厚感が乏しい。

「MI Dead Reckoning」シリーズ第何作になったのだろう。トム・クルーズは相変わらずのアクションを披露する。こういう作品はあまりストーリーをしっかりつかめなくてもそれなりには楽しめるようになっている。人物関係がどうなっているのか分かりにくいところもあったが、大きな流れは分かる。続編が来年ということだと思うが、なるべく早めに公開になって欲しい。

「こんにちは、母さん」山田洋二監督の下町人情もの。こういう作風は山田監督ならではのものだろう。寅さんシリーズにも通ずる感じがある。期待を裏切らない。吉永小百合もうまく適役として収まっている。

「福田村事件」関東大震災の時に、東京だけでなく地方でもこういう史実があったということは、この作品で初めて知った。記録が見つからないだけで、おそらく福田村以外でも同じような虐殺はあったのだろう。森監督はやはりインタビューのドキュメントで撮りたいのだろうと思った。関係者はもう生きていないのでこういう再現ドラマの手法を取るしかなかった。上映時間はやや長すぎる。

「Killers of the Flower Moon」上映時間はとても長すぎる。映画館としても3時間半の上映時間いうのは営業妨害のようなもので短い作品なら同じ時間で2本上映できる。最初のシーンでデカプリオが登場するが、いい具合に老けたと思ってそれだけでかなり感動した。そのデカプリオはデ・ニーロと会うのだがデ・ニーロもいい具合に老けた。そして善人風の見かけでの悪役というのはデ・ニーロのお得意だ。史実に基づいて書かれた小説を映画化したので、実際にこういう連続殺人は起こったのだ。利権絡みで殺す側と殺される側とに分化した。こういうことはいつでもどこでも起こり得る。

「PERFECT DAYS」役所広司が見事な存在感と演技を見せる。それだけで十分満足できる。ストーリーは公共トイレの清掃員の日常を淡々と追う。何か大きな出来事が起こることはない。何か小さな出来事は時々起こる。そういう日常生活というのは私たちにも共通するものだろう。毎日仕事で大きなトラブルが続出したり、びっくりするほど物事な上手くいくということは無いものだ。しみじみと味わって見てよかったと思える。