本の感想「ゴキブリ・マイウェイ」大崎遥花

本の感想「ゴキブリ・マイウェイ」大崎遥花(山と渓谷社

 自然科学分野の気鋭の研修者でクチキゴキブリの行動生態を専門としている。この分野の研究は著者が世界でただ一人という。とにかく面白い。クチキゴキブリの特徴は番が互いに翅の食い合いをすること、卵胎生であること、番で子育てをすること、浮気をせず番は生涯ともにすること、などがある。この本は著者が取り組んできた研究の成果を一般向けに紹介しているが、同時に研究者としてのキャリア・パスの実情も詳しく述べている。これから研究者を目指そうとしている学生たちにとってはよい手引き書にもなっている。とにかく研究対象にわき目も振らずに没頭することが研究を続けていく最大の動機であり、ちょっとやそっと関心があるという程度ではどうにもならない。研究費用の問題があったり、試行錯誤が延々と続いたり、ハードルは高く数も多いものだ。七転八倒しつつも著者は研究にひたすら邁進していく。意気軒高ぶりが見事としか言えない。研究は途上にあり、翅の食い合いの理由はまだ解明できておらず、仮説を立てているところだという。この本の執筆時点では学会発表がされていないため、その仮説は披露されていない。だから、続編が必要だ。

 さらに驚くことがひとつあって、挿絵のイラストと点描画は著者自身が描いたもの。特に点描画はプロ級である。「ペンで生物画を描くのが趣味」なのだという。趣味のレベルをはるかに凌駕していて息を飲む。文才あり画才あり研究者としても俊英。今後の活躍を瞠目したい。