本の感想「逃げたっていいじゃない」香山リカ

本の感想「逃げたっていいじゃない」香山リカ(株式会社エクスナレッジ

 何から逃げるのかは人それぞれであるが、例えば次のようなものから。会社から、SNSから、親から、家族から、配偶者から、成果主義から、ジェンダーから、昭和的な美徳から etc という具合にあれもこれもありだ。著者は医師としては精神科が専門でずっとその領域で診療してきたが、2022年4月からは北海道むかわ町国民健康保険穂別診療所で僻地医療に取り組んでいる。精神科だけでなく総合的な医療を担当するようになった。自身の言葉では「東京での診療や大学の教育活動などから別の場所に逃げた」とも言えるとしている。著者の場合には具体的な困難から逃げたというよりも、別のこともやってみたい。僻地医療も経験してみたい、という動機だったのだが、それまでとは別の世界に移ったということにおいては「逃げた」とも言えるのだろう。

 若い人の事例として「親から離れられない」ケースがあるという。「親との同居が定着しすぎて、逆に親子がいつまでも仲良しでいるのが当然というのがデフォルトになっています」。昨今の様々な(主に経済的な)事情から就職しても親と同居しているケースが少なくなくなっているという。そうすると、「親の家から出るタイミングを失って、親の影響圏内から物理的はもちろん、心理的にも抜けられなくなってしまいます」。「親」を先に列挙した「成果主義」なり「SNS」なり「昭和的な美徳」なりと置き換えてみるとすんなりと当てはまる。状況を客観視するためには内部から見ているだけではだめで、外から俯瞰的に見ることが必要になる。