本の感想「無人島、研究と冒険、半分半分」川上和人

本の感想「無人島、研究と冒険、半分半分」川上和人(東京書籍)

 著者はNHK R1の人気番組「こども科学電話相談」で鳥の分野の回答者のひとりである。鳥と恐竜の分野は関連性が深いので、川上先生は恐竜についての質問にも補足回答をすることがよくあるし、恐竜についての著書も上梓している。電話相談は子供相手の科学の番組であるので基本的に笑いと取る必要はないのだが、川上先生は回答を疎かにすることなしに、積極的に笑いを取りにいく。

 無人島の冒険というのは南硫黄島の学術調査のことで、有史以来、調査は4回だけしか実施されていない。1936年、1982年、2007年、2017年の4回で、川上先生はこのうち最近の2回に参加している。島の地形は急峻である。半径約1km、標高も約1km(916m)だから平均斜度は約45度ということになる。山頂まで登るためには山岳登攀の専門家によるルート工作が必要だ。研究者たちは調査機材やツェルトなどの用具を担いでこのきついルートを登り降りしなければならない。調査に要するエネルギーとルートを往来するエネルギーと半分半分ぐらいなのだろう。生物環境も厳しい。コバエが多くヒトに寄ってくる。呼吸するとハエが口や鼻から体内に侵入するのを防げない。もちろん、調査活動中にずっと呼吸を止めることもできない。水鳥を捕獲すれば吐瀉物を浴びせられてしまう場合がある。物凄い臭気なので衣服を洗濯しても臭いは落ちないという。こういった難儀なエピソードもユーモラスな筆致で記されている。

 なぜ、こんな苦労をしてまでも調査に赴くのだろうと思ってしまいそうだが、川上先生はまた次の調査(その時56歳になるから多分最後になりそうとも言う)にも参加したいと述べている。野生動物に関する科学的な知見はこういうフィールド・ワークなしには得られないからだ。調査はそれまでに分からなかったことを明らかにする。発見こそが研究者の最大の動機になるのだ。このようにして人類の歴史は様々な知見を広げてきている。その現場にいることが研究者たちの矜持であると分かる。川上先生が2027年の調査でも大いにご活躍されることを期待したい。

 この本の奇数ページの左端に絵が描かれている。数十ページまで読んだところでパラパラ漫画になっていることに気が付いた。電話相談同様にサービス精神があり過ぎるぐらいだ。