本の感想「苦しくて切ないすべての人たちへ」南直哉

本の感想「苦しくて切ないすべての人たちへ」南直哉(新潮新書

 著者の南直哉氏は恐山菩提寺院大、霊泉寺住職。以前NHKの「ブラタモリ」で恐山を取材したときに番組に登場したことがあった。

 地元の学校の「総合学習」で生徒に話す機会があり、次のように話を始めた。「楽しく嬉しく愉快な人生を送っている人は、実にめでたい。ただ、こういう人たちは、仏教などどうでもいいし、仏教の方も、彼らはどうでもいい。仏教が手を延ばそうとするのは、苦しくて切なくて悲しい思いをしている人たちで、その人たちのためだけに、仏教はある」。仏教に限らず宗教に関りを持とうとする人には何かにすがりたいという気持ちがあるものだろう。下手をすればいわゆるカルトに引き込まれたりするケースもある。宗教とは関わらずに自己完結的に生きたい人も少なくないのだろう。本書で著者は自分自身をちょっと風変わりな僧侶であると評している。本流から少し距離を置く立場をとる。おそらくそのことで仏教と一般の人々との間の敷居を低くしているような気がする。昨今「生き辛さ」を感じないで人生を全うする人は多くはなさそうだ。仏教の教えが少しでも「辛さ」を解決するのに役に立つことがあるのかもしれない。様々な社会のルールも仏教的な視点から見直してベターなものに変えていくこともできるのかもしれない。本書を読んでこのようなことを考えさせられた。