本の感想「ノイエ・ハイマート」池澤夏樹

本の感想「ノイエ・ハイマート」池澤夏樹(新潮社)

 難民をテーマにした短編と詩で構成されている。アフリカや中東から欧州へ向かう難民や、戦後、朝鮮半島から日本へ帰還を果たした人たちも描かれている。

 著者自身の解説の最後に記されている。「圧倒的な武力を持つ集団が他の集団のメンバーを大量に殺す。殺される側に抵抗の手段がなければただ逃げるしかない。こうして難民が生まれる。この本に記した多くの地名の先にウクライナとガザが加わったと嘆きながら、人のなす悪の陳腐さにため息が出る。そんなことをしている場合ではないだろうに、そんなことしかしない人々。しかし彼らは我らの一部である。人類はプーチンとネタニヤフを含む。いつだって殺される側・追われる側に対して殺し・追う側がいるのだ。」

 Neue Heimatはドイツ語で「新しい故郷」の意味だが、この言葉には形容矛盾がある。故郷とはある一定以上の時間の経過を経て出来るものだからだ。だけれども、現実には「新しい故郷」を作る必要に迫られるケースがある。難民たちが新しい故郷をもう一つ別の故郷にできるまでの安寧を社会が保障するためにどういった方策があるのだろう。